近代の京都画壇を代表する日本画家として活躍した宇田荻邨(うだてきそん 1896~1980)による作品。三重県松阪市出身の荻邨は画業を志して京都へ赴き、大正8年(1919)の第1回帝国美術院展覧会(帝展)に入選を果たして以降、華々しい業績の数々を残しました。「清廉潔白」と称される大和絵的な美を追究した荻邨ですが、本作にはその魅力が遺憾なく発揮されています。日の出を背にして浮かぶ一艘の船には、宝珠、宝鑰、小槌、笠、蓑、米俵、長柄柄杓、鯛、松竹梅といった縁起物が満載。船の傍らには、その出航を寿ぐように鶴と亀が描かれています。江戸時代には初夢に良い夢を見ようと、枕の下に宝船を描いた絵を敷いて眠る風習が広まったとされますが、本作に描かれているのはいずれも宝船の絵に伝統的なモチーフで、すべてにきちんと意味があります。もちろん枕の下に敷くわけにはいきませんが、招福のご利益を期待できそうな、とても明るく、おめでたい雰囲気の一作です。
日本画 額装(木)
絵寸 54.0cm×42.7cm(10号) 右下に印
額寸 75.0cm×62.4cm×6.0cm 額裏板にシール「宝船 裕彦鑑(印)」「京都 伊藤竹香堂」
化粧箱入り 箱寸 63.5cm×75.8cm×6.3cm